買物公園がイルミネーションで彩られる12月。
旭川市在住の小林誠二さん(55歳)からご依頼をいただく。
依頼の内容は25年前に別れた娘 彩子さん(27歳)に通帳を渡してほしいとの内容だった。
小林さんが娘 彩子さんと別れたのは彩子さんが3歳のとき。
小林さんは30年前、職場の同僚だった田中美幸さんと結婚をされた。
当時、小林さんと美幸さんは建設会社で働いていた。
小林さんは現場管理者、美幸さんは事務職。
年も近いことから、互いに意識するようになり、交際1年を経て結婚をされた。
結婚1年後、彩子さんが生まれた。
小林さんは早くに両親を亡くされていたため、美幸さん、彩子さんとの3人での生活は夢のようだった。
だが、その幸せも長く続かなかった。
美幸さんから突然、離婚を迫られたのだった。
美幸さんは、小林さんと交際する前に学生時代から交際していた彼(佐藤隆志さん)がいた。
佐藤さんから別れを告げられ、失意の中にいたとき、小林さんと知り合い、交際、結婚をする。
その事情は小林さんも知っていた。
実は半年ほど前から美幸さんは佐藤さんとひそかに会っていたのだ。
そして美幸さんは、佐藤さんへの気持ちを抑えきれず、小林さんに離婚をお願いしてきたのだった。
美幸さんの気持ちを聞いて、小林さんは不思議に怒りがわいてこなかったそうです。
「俺はもう一人じゃない、彩子がいるんだ」・・・と思えたそうです。
美幸さんの離婚の条件は、あまりに一方的だった。
養育費はいりません。
また、彩子が大きくなるまで会わせない。
探偵が聞いてもあきれる要求だったが、小林さんはそれも了承した。
彩子さえ幸せでいてくれたら・・・と美幸さんの要求をすべて受け入れたのだった。
離婚後、小林さんは家族で暮らしていた部屋に一人暮らしを続けた。
ガランとした部屋にソファーとテレビだけがあったそうです。
小林さんの唯一の楽しみは美幸さんの母親から1年に1度くらい届く彩子さんの写真だった。
運動会の写真、遠足の写真、学芸会の写真、小林さんにとっては宝物だった。
小林さんは、美幸さんから養育費はいらないと言われていたため、自分自身の気持ちとして、彩子さんの名義の通帳を作り、毎月5万円を積み立てしていた。
そして、彩子が結婚をするとき、この通帳を渡そうと思った。
今年、美幸さんのお母さんから彩子さんの写真と手紙が入っていた。
「彩子が来年3月に結婚をします」・・・と。
小林さんは、その手紙を読みながら、声を出して泣いた。
「彩子が結婚するんだ、あの彩子が結婚するんだ」と嬉しくて、嬉しくて、もう自分の人生が終わってもよいとさえ思えた。
だが、小林さんには大きな宿題が残っていた。
この通帳を彩子に渡さなければならない。
通帳の額面は1500万円を超えていた。
美幸さんの家庭に波風を立てるわけにはいかない。
義母に託すのも面倒をかけてしまう。
なんとかこの通帳をそっと彩子に届けたい。
そして知人に紹介され、小林さんは当社を訪れた。
小林さんは自分のことを伏せて、何とか彩子さんに通帳を渡してほしいと希望された。
だが、探偵は小林さんに「それは無理です」と答えました。
そもそも1500万円の入った通帳を事情を話さずに渡しても受け取ってもらえるはずがない。
やはり小林さんの存在を言わざるを得ない。
小林さんも「そうですか」と小さく言われた。
そして探偵にすべてをおまかせいただく。
幸子さんのお母さんの話では彩子さんは独り暮らしをしているとのこと。
幸子さんのお母さんに住所を聞くことも不可能ではないが、こちらの動きを見せたくはない。
さいわい小林さんの実子であるため、戸籍上の動きで彩子さんの住所が判明する。
土曜日、探偵が彩子さんの住所を訪ねる。
東光にある単身用のマンションに彩子さんは住んでいた。
探偵が彩子さんの部屋のインターホンを押す。
彩子さんは在宅していたが、突然の探偵の訪問に驚き、不審に思っておられた。
ドア越しに事情をご説明した。
彩子さんも父親が養父であることは知っていた。
だが、実父が自分のことをそんなふうに思っているなどとは想像もしていなかったようだ。
そして、探偵が核心の通帳の件をお話すると、彩子さんは、少し顔が変わり、探偵にきっぱりと言われました。
「その件については条件があります」
「ここに小林さんをお連れしてください」
「そして直接、話をさせてください」・・・・と。
探偵は彩子さんの家からまっすぐ小林さんの自宅を訪ねた。
そして彩子さんの条件をお伝えした。
小林さんはうろたえていた。
「彩子と会えるのは嬉しいよ」
「だけど今さらどんな顔をしていけばいいんですか?」
探偵はそんな小林さんを説得する。
翌日の午前10時に小林さん、探偵の二人で彩子さんの家を訪ねる。
彩子さんはこわばった顔で玄関のドアを開けた。
彩子さん 「彩子です、お父さんなんですか?」
小林さん 「はい、小林です、はじめまし・・・いや久しぶりです」
探偵にも二人の緊張が伝わる。
そして彩子さんが小林さんの目を見て言った。
彩子さん 「私を遊園地に連れて行ってくれましたよね」
小林さん 「はい」
彩子さん 「私を買物公園に連れて行ってくれましたよね」
小林さん 「はい」
彩子さん 「私と札幌の大通り公園の噴水に行きましたよね」
小林さん 「はい」
彩子さん 「私をいつもお風呂に入れてくれましたよ」
ずっと彩子さんは泣きながら、小林さんに質問していた。
小林さんも泣きながら、答えていた。
彩子さんは昨日、実家に行き、自分の子供の頃のアルバムを見てきたそうです。
そこには、不自然に半分に切られた写真がたくさんあったそうです。
おそらく小林さんが写っている部分を切ったのだろう。
そして彩子さんは、きっぱりの小林さんに言われた。
「私はその通帳をいただくことはできません」
「私は来年、結婚をします、結婚のお祝いに10万円をいただけますか」
「そして、私の結婚式に出席してください」
さらに彩子さんは大きな涙を流しながら、
「私はお父さんにお小遣いをもらったことがありません」
「だから私に毎月 3万円のお小遣いをください」・・・・・と。
小林さんは、彩子さんの言葉に押されてしまい、「わかりました」と答えていた。
小林さんと探偵が彩子さんの家を出たのは2時間後、ちょうどお昼。
ふいに小林さんが「探偵さん、そこを曲がったところにうまいラーメン屋があるんだ、ラーメン食べていかないかい」・・・・と言われた。
ラーメンを食べながら小林さんはまだ泣いていた。
小林さん 「俺、嬉しいよ」
「俺、いつ人生が終わってもいいと思っていたんだよ」
「だけど、俺は長生きしなきゃならい、彩子に小遣いを渡さなければならない」
「俺、タバコやめるわ」
ラーメンを食べ終え、探偵は小林さんを家に送り届ける。
3か月後、探偵に一枚の写真が送られてきた。
彩子さんの結婚式で彩子さんと緊張している小林さんが二人で写っている写真だった。
小林さん、彩子さんのためにも長生きしてくださいね。
