札幌にも短い夏がおとずれる7月。
当探偵社へ高橋直人さん(54歳)から娘 明奈さん(23歳)の結婚調査を依頼される。
明奈さんのお母さん(高橋由美子さん)は明奈さんが5歳のときに病気で亡くなられた。
その後、直人さんはひとりで明奈さんを一生懸命に育てた。
由美子さんは自分の病気が発見され、余命が宣告されると直人さんに「1つの願い」と「一つの物」を託された。
その一つの願いが明奈さんが結婚相手を連れてきたら、相手の男性を探偵を使って調べてほしいとのことだった。
由美子さんは病室のベットの上で直人さんに言われた。
「貴方はとても優しい人、だから私は結婚してとても幸せだったわ」
「でも、貴方は人を疑えない人よ」
「私は明奈が結婚するときには生きていないわ」
「本当は私が明奈の連れてきた男性をじっくりと見たいのだけれど、それは無理なこと」
「だから私の代りに探偵さんを使って調べてもらって」
「そして悪い男性だったら、私の分まで反対してね」
直人さんは由美子さんのその願いを守らなければならないと思い、当社へ依頼されたのだった。
明奈さんが直人さんに紹介をした男性は阿部拓郎さん(29歳)、仕事は介護職。
北見市出身の素朴そうな男性であった。
さっそく、探偵は調査を開始する。
探偵のネットワークで拓郎さんの職場である介護施設の職員から話を聞くことができた。
拓郎さんの評判はすこぶる良かった。
施設の入所者さんからも評判も良く、同僚や上司からの信頼も厚い。
また、探偵は拓郎さんの行動も確認した。
朝は7時過ぎには自宅アパートを出て、職場には一番に出勤する。
仕事が終わると自宅アパート付近のスーパーに立ち寄り、お弁当や食材を買って帰る。
仕事が休みの日は由美子さんとデート。
また、探偵の特殊調査も行ったが、拓郎さんの問題点は出てこなかった。
探偵は依頼人の直人さんに以上の結果を報告する。
直人さんは嬉しそうに探偵の報告を聞いていた。
「良かった、良かった、明奈も良い人を選んでくれたんだ」と少し寂しそうに言われた。
直人さんは明奈さんと拓郎さんの結婚を承諾された。
その後、直人さんからお願いされたことがあった。
一本のVHSビデオテープをDVDにダビングしてほしいとのこと。
大切なビデオテープのため、切れてしまっては大変なため、DVDにダビングして、それを明奈さんに渡したいとのことであった。
探偵はそのVHSをお預かりし、DVDにダビングをする。
だか、探偵はダビング操作が涙がこぼれて、出来なくなりそうになった。
テープは明奈さんに向けた由美子さんからのメッセージビデオであった。
病室のベットの上、由美子さんが未来の明奈さんに語りかけていた。
「明奈、結婚おめでとう」
「私は貴女が結婚するときまで生きられません」
「だから、今、貴女におめでとうを言いますね」
「きっと貴女は素敵な女性になっているでしょう」
「そして、きっと素敵な男性と今、このビデオを見てくれていますね」
「未来の明奈のダンナ様、明奈は少しワガママなところがあります、許してあげてくださいね」
「そして、明奈を幸せにしてくださいね」
「どうか娘をよろしくお願いいたします」
テープには由美子さんの言葉より大きな声で直人さんのすすり泣きが録音されていた。
一年後の6月。
拓郎さんと明奈さんの結婚式が行われた。
一つの願い・・・・探偵への調査依頼
一つの物・・・・・明奈さんが結婚するときに渡してもらうメッセージビデオ