札幌テレビ塔が恋人たちでにぎわう12月24日。
24日、イブの日は探偵も大忙しの日。
調査員はあちらこちらで慌ただしく動き回っていた。
探偵は会社に残り、各調査員の報告を受けながら、電話当番をしていたのです。
午後5時30分。
東京都在住の野沢準一さん(33歳)からお電話をいただく。
とても急いだ口調で話された。
「午後7時、テレビ塔からの夜景を撮影してください」
テレビ塔付近は道路が渋滞している時間である。
詳しく内容を聞いている時間はない。
探偵は急いで車に飛び乗り、テレビ塔へ向かった。
やはり道路は混んでおり、テレビ塔に上れたのは午後6時45分。
なんとか午後7時に間に合った。
探偵は展望台に上り、四方から夜景を撮影する。
札幌大通にきらめくイルミネーション。
電光看板の立ち並ぶススキノ方面。
札幌駅のにぎやかな風景。
たくさんの映像を準一さんにLINEを使って送信する。
15分後、探偵の電話が鳴った。
準一さんからであった。
準一さんは涙声で何度も何度も「ありがとうございました」と探偵に言ってくれました。
先ほどはご依頼の深い内容が聞けなかったため、準一さんに尋ねました。
今回の依頼はどのような意味があったのですか?・・・と。
依頼は亡くなった彼女との約束を果たすため。
準一さんは3年前まで札幌に住んでおられ、吉田かおりさん(28歳)と交際していた。
その後、準一さんは東京に転勤になり、遠距離恋愛をしていた。
かおりさんが東京に出向いたり、準一さんが札幌に戻ってきたりして交際を深めていった。
そしてイブの日は必ず二人でいたいねと約束していた。
一昨年のクリスマスイブ、準一さんとかおりさんはテレビ塔で待ち合わせする。
かおりさんは看護師でイブの日は午後5時まで勤務。
準一さんもイブの日は土曜日であったが、午前中は仕事で出勤する。
午前で仕事を終え、急いで成田空港に行き、千歳行きに乗る。
そして、約束の午後7時にテレビ塔に到着。
かおりさんも仕事を終え、テレビ塔で合流する。
その日はテレビ塔からの夜景を見ながら、つかの間のデート。
そして、来年のイブもテレビ塔で会うことを約束した。
今年、イブの日は金曜日。
準一さんは前もって休みを取っていた。
かおりさんも仕事はお休み。
だが、かおりさんは急性の病で突然、亡くなられた。
準一さんは涙が枯れるほど泣いた。
やっとかおりさんの死を受け入れた準一さんは今年もテレビ塔に行こうと決めた。
そして24日、準一さんは朝から去年のかおりさんとのイブの日を思い出してしまった。
枯れたはずの涙があふれ出てきて、動けなくなってしまった。
時計の針だけが進み、そして午後5時。
準一さんはやっぱりテレビ塔に行こうと思った。
だが、物理的に無理、そして探偵に電話をされたそうです。
「僕の代わりにテレビ塔に行ってください」
「そして午後7時のテレビ塔からの写真を送ってください」と。
準一さんは最後に探偵に言われました。
「ありがとう、おかげでかおりとの約束がはたせました」
「そして、これからは前を向いて歩いていきます」