嵐山展望台にも春が訪れる4月。
旭川在住の佐々木杏さん(36歳)から夫 湊さん(33歳)の失踪人調査を依頼される。
湊さんは派遣会社に登録し、コールセンターに勤務されていた。
杏さんは市役所勤務の公務員。
結婚して2年のご夫婦。
湊さんは半年前から仕事のことで悩んでいた。
コールセンターでの勤務はやはり精神的に大変だったようだ。
杏さんは、「どうしても辛いなら、仕事を辞めてもいいわよ」と言っていたのだが、
湊さんは「大丈夫、もう少し頑張ってみるよ」と言っていた。
4月15日、杏さんが仕事から帰るとテーブルの上に手紙がおいてあった。
「今までありがとう」
「俺はダメな人間なんだ」
「杏に助けてもらうばかりですまなかった」
「俺の分まで幸せになってくれ」・・・・と。
杏さんはすぐに湊さんの私物を確認する。
下着、衣類などが少しなくなっていた。
そして、湊さんの机の引き出しから心療内科の薬袋が出てきた。
そして、飲みかけの薬が入っていたのだ。
ネットで薬を調べると抗うつ剤と睡眠薬であった。
湊さんは杏さんには言わず、心療内科に通院していたのだった。
杏さんはすぐに湊さんの実家に連絡をする。
また、杏さんが知っている限りの湊さんの友人に連絡をする。
翌日は警察署に行き、家出人・失踪人届けを提出する。
警察は「一般家出人のため、積極的捜査はできませんが、何か情報が入れば連絡します」とのこと。
湊さんは自分の車に多少の荷物をのせて、家を出たのだった。
杏さんも必死に旭川市内を探し回った。
友人や親類も一緒になって一生懸命に走り回ってくれた。
だが、湊さんも湊さんが乗っていった車も発見には至らなかった。
湊さんが失踪して4日後、杏さんは当社へ依頼をされた。
さっそく調査を開始する。
調査は2チームに分かれて対応した。
旭川チームは旭川を中心に湊さん、湊さんの車の発見に動く。
札幌チームは札幌を中心に対応していた。
湊さんは杏さんと結婚する前は札幌で働いていたため、札幌に来ていることは十分に考えられる。
調査を開始して12日目、札幌チームが湊さんの車を白石区にある24時間営業のスーパーの駐車場で発見する。
時間は深夜2時。
調査員が湊さんの車に近づくとエンジンがかかっている。
おそらく車内で車のシートを倒して眠っているのだろう。
探偵はすぐに杏さんに連絡をする。
杏さんは旭川チームが迎えに行き、同駐車場に来られた。
杏さんが到着したのが、午前5時。
駐車場には湊さんの車がポツンとあるだけ。
探偵は湊さんが逃走することも想定して、静かに湊さんの車の周りを探偵車両で囲む。
杏さんは目に涙をいっぱいためながら、湊さんの車に近づき、運転席の窓を小さくたたく。
ビックリしたように湊さんが車の中で起き上がった。
車から降りてきた湊さんは頬がこけて、げっそりとしていた。
探偵は少し離れたところから二人を見守っていた。
湊さんは小さな声で「ごめんね」と言い、杏さんは「うん」とうなずいていた。