北大のポプラ並木に秋風が吹き始める9月。
札幌市在住の松山絵美さん(49歳)から内縁関係である竹田清さん(54歳)の失踪調査を依頼される。
絵美さんは看護師、清さんは建設会社で働いている。
絵美さんは5年前に離婚、子供は娘が一人、既に絵美さんと同じ看護師として函館で働いている。
3年前、絵美さんは近所のスーパーで清さんとよくすれ違っていた。
あるとき、そのスーパーで会計を終えた絵美さんが財布を落としたとき、後ろにいた清さんが拾い、渡してくれた。
その数日後、絵美さんは近所のお好み焼き屋に行ったところ、清さんがカウンターでお好み焼きをツマミにビールを飲んでいた。
その際、財布を拾ってもらったお礼などを清さんに言った。
絵美さんと清さんは初めて互いに自己紹介をした。
二人は他愛もない話をした。
絵美さんは5年前に離婚し、長女は看護師として働いていること。
清さんは、福岡生まれで今は札幌の建設会社で働いていること、会社の寮に住んでいること・・・など等。
そしてLINEの交換をした。
互いに時間のあるときなど食事に出かけたり、ときには絵美さんが自宅に食事の招待などをしていた。
そんな関係が続き1年後、清さんは会社の寮を出て、絵美さんの部屋で一緒に住むことになった。
清さんは自分のことはあまり話さないが、福岡の街のことはよく話してくれた。
博多の屋台のこと、ラーメンのこと・・・・
絵美さんにとっては、静かだけれど楽しい時間が続いた。
そうして2年が経った。
1週間前、絵美さんが仕事を終え、自宅に帰ると机の上に一通の手紙が置いてあった。
決して上手な字ではないが、一文字ずつ丁寧に書かれているのが分かる手紙だった。
「絵美には感謝しかありません」
「本当に楽しかった3年間でした」
「自分にとっては、かけがえのない日々だった」
「事情があり、この家を出ていきます」
「最後に本当にありがとう」・・・・ と書かれていた。
すぐに清さんのスマホに電話をするが、既に解約されていた。
翌日、清さんの会社に行ったが、社長も驚きながら、昨日、急に事情があって福岡に帰らなければならないと言って
退職したと教えてくれた。
絵美さんは自分のことが嫌いになって出ていったんだと言い聞かせた。
だが、どうしても納得ができなかった。
絵美さんは疲れ切った心で探偵を訪れた。
そして、探偵に清さんの居所調査を依頼された。
さっそく探偵が調査を開始する。
探偵の様々な特殊調査を実施する。
3週間後、清さんの居所を確認した。
清さんは福岡市におられた。
探偵は調査状況を絵美さんに報告をさせていただく。
絵美さんは清さんの詳しい状況を知りたいとさらに探偵にされた。
幸い、探偵は清さんをよく知る人物と接触することができた。
清さんは、妻 尚子さん(51歳)と暮らしていた。
清さんと尚子さんは結婚して25年。
二人の間には長女 凜さん(24歳)がおられる。
尚子さんの実家は福岡の名家、清さんとの結婚には猛反対された。
だが、反対を押し切って二人は結婚をした。
尚子さんは実家が開業している歯科医院で歯科医をしていた。
清さんは会社員。
収入格差などもあり、夫婦の仲はギクシャクしていった。
あるとき、清さんと尚子さんは口論となり、翌日、清さんは家を出たそうだ。
それから10年の月日が経った。
だが昨年、尚子さんが若年性アルツハイマー型認知症と診断され、長女の凜さんは清さんを探して母との再会を望んだのでした。
その際、凜さんは地元の探偵社に依頼して、住所を確認して、ひそかに清さんと会っていたのだった。
清さんは、凜さんとの再会に喜び、驚いた。
そして、尚子さんの状況を聞いた。
清さんは、尚子さんのことも心配だったが、凜さん一人に尚子さんの世話をさせることに戸惑ってしまった。
悩んだ末に福岡に帰ることを決断し、絵美さんの元を去ったのだった。
以上、すべてを依頼人である絵美さんに報告をさせていただいた。
絵美さんは清さん宛ての一通の手紙を託した。
三日後、探偵は再度、福岡市にむかった。
清さんに絵美さんから預かった手紙を渡すと、すぐに手紙の封を切った。
ボロボロと涙を流していた清さん。
探偵は手紙の内容をも知る由もないが、清さんは手紙を読みながら、ボロボロと涙を流されていたのだった。